胸腹部臓器の後遺障害
腹部臓器の後遺障害等級
後遺障害等級別表Ⅰ 介護を要するもの | |
等級 | 障害の程度 |
1級2号 | 胸腹部臓器に著しい障害を残し,常に介護を要するもの |
2級2号 | 胸腹部臓器に著しい障害を残し,随時介護を要するもの |
後遺障害等級別表Ⅱ | |
等級 | 障害の程度 |
3級4号 | 胸腹部臓器に著しい障害を残し,終身労務に服することができないもの |
5級3号 | 胸腹部臓器に著しい障害を残し,特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
7級5号 | 胸腹部臓器に障害を残し,軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
9級11号 | 胸腹部臓器に障害を残し,服することができる労務が相当な程度に制限されるもの |
11級10号 | 胸腹部臓器に障害を残し,労務の遂行に相当な程度の支障があるもの |
13級11号 | 胸腹部臓器に障害を残すもの |
呼吸器の障害
認定の基準
呼吸機能に障害を残したものの後遺障害等級認定は,原則として,
①【動脈血酸素分圧と動脈血炭酸ガス分圧の検査結果による判定】により判定された等級が認定されることになります。
ただし,②【スパイロメトリーの結果及び呼吸困難の程度による判定】,
③【運動負荷試験の結果による判定】
により判定された等級が,①により判定された等級よりも高い場合には,
②,③により判定された等級により認定されることになります。
① 動脈血酸素分圧と動脈血炭酸ガス分圧の検査結果による判定
(1) 動脈血酸素分圧が50Torr以下のもの (ⅰ)呼吸機能の低下により常時介護が必要なものは, 1級 (ⅱ)呼吸機能の低下により随時介護が必要なものは, 2級 (ⅲ)(ⅰ)(ⅱ)に該当しないものは, 3級 (2) 動脈血酸素分圧が50Torrを超え60Torr以下のもの (ⅰ)動脈血炭酸ガス分圧が限界値範囲(37~43Torr)にないもので, かつ,呼吸機能の低下により常時介護が必要なものは, 1級 (ⅱ)動脈血炭酸ガス分圧が限界値範囲(37~43Torr)にないもので, かつ,呼吸機能の低下により随時介護が必要なものは, 2級 (ⅲ)動脈血炭酸ガス分圧が限界値範囲(37~43Torr)にないもので, かつ,(ⅰ)(ⅱ)に該当しないものは, 3級 (ⅳ)(ⅰ)(ⅱ)(ⅲ)に該当しないものは, 5級 (3) 動脈血酸素分圧が60Torrを超え70Torr以下のもの (ⅰ)動脈血炭酸ガス分圧が限界値範囲(37~43Torr)にないものは, 7級 (ⅱ)(ⅰ)に該当しないものは, 9級 (4) 動脈血酸素分圧が70Torrを超えるもの 動脈血炭酸ガス分圧が限界値範囲(37~43Torr)にないものは, 11級 |
② スパイロメトリーの結果及び呼吸困難の程度による判定
(1) %1秒量35以下,又は,%肺活量40以下のもの (ⅰ)高度の呼吸困難が認められ,かつ,呼吸機能の低下により 常時介護が必要なものは, 1級 (ⅱ)高度の呼吸困難が認められ,かつ,呼吸機能の低下により 随時介護が必要なものは, 2級 (ⅲ)高度の呼吸困難が認められ,かつ,(ⅰ)(ⅱ)に該当しないものは, 3級 (ⅳ)中等度の呼吸困難が認められるものは, 7級 (ⅴ)軽度の呼吸困難が認められるものは, 11級 (2) %1秒量35を超え55以下,又は,%肺活量40を超え60以下のもの (ⅰ)高度,又は,中等度の呼吸困難が認められるものは, 7級 (ⅱ)軽度の呼吸困難が認められるものは, 11級 (3) %1秒量55を超え70以下,又は,%肺活量60を超え80以下のもの 高度,又は,中等度の呼吸困難が認められるものは, 11級 |
③ 運動負荷試験の結果による判定
①,②による判定では後遺障害等級に該当しないものの,呼吸機能の低下による呼吸困難が認められ,運動負荷試験の結果から明らかに呼吸機能に障害があると認められるものは,11級に該当するとされています。
呼吸困難
「高度の呼吸困難」とは,呼吸困難のため,連続しておおむね100m以上歩けないものをいうとされています。
「中等度の呼吸困難」とは,呼吸困難のため,平地でさえ健常者と同様には歩けないが,自分のペースでなら1km程度の歩行が可能であるものをいうとされています。
「軽度の呼吸困難」とは,呼吸困難のため,健常者とは同様には階段の昇降ができないものをいうとされています。
循環器の障害
心機能が低下したもの
心機能が低下したものの後遺障害等級は,心機能の低下による運動耐容能の低下の程度により,認定されることになります。
運動耐容能の低下が中等度(おおむね6METsを超える強度の身体活動が制限されるもの)であるものは, | 9級 |
運動耐容能の低下が軽度(おおむね8METsを超える強度の身体活動が制限されるもの)であるものは, | 11級 |
除細動器,又は,ペースメーカーを植え込んだもの
「除細動器を植え込んだもの」は, | 7級 |
「ペースメーカーを植え込んだもの」は, | 9級 |
房室弁,又は,大動脈弁を置換したもの
継続的に抗凝血薬療法を行うものは, | 9級 |
それ以外は, | 11級 |
大動脈に解離を残すもの
偽腔開存型の解離を残すものは, | 11級 |
腹部臓器の障害
認定の基準
腹部臓器の後遺障害等級は,各臓器ごとにその機能の低下の程度等により,それぞれ認定されることになります。
食道の障害
「食道の狭窄による通過障害を残すもの」は, | 9級 |
「食道の狭窄による通過障害」とは,
①通過障害の自覚症状があること
②消化管造影検査により,食道の狭窄による造影剤のうっ滞が認められること
が必要とされています。
胃の障害
胃の後遺障害は,胃の切除により生じる症状の有無により,認定されることになります。
(1) 消化吸収障害,ダンピング症候群及び胃切除術後逆流性食道炎のいずれもが認められるものは, | 7級 |
(2) 消化吸収障害,ダンピング症候群が認められるものは, | 9級 |
(3) 消化吸収障害,胃切除術後逆流性食道炎がみとめられるものは, | 9級 |
(4) 消化吸収障害,ダンピング症候群及び胃切除術後逆流性食道炎のいずれかが認められるものは, | 11級 |
(5) 噴門部又は幽門部を含む胃の一部を亡失したものは, | 13級 |
小腸の障害
(1) 小腸を大量に切除したもの (ⅰ)残存する空腸及び回腸の長さが100cm以下となったものは, 9級 (ⅱ)残存する空腸及び回腸の長さが100cmを超え300cm未満となったもので, 消化吸収障害が認めれらるものは, 11級 (2) 人工肛門を造設したもの (ⅰ)小腸内容が漏出することによりストマ周辺に著しい皮膚のびらんを生じ, パウチ等の装着ができないものは, 5級 (ⅱ)それ以外は, 7級 (3) 小腸皮膚瘻を残すもの (ⅰ)瘻孔から小腸内容の全部又は大部分が漏出するもの ①小腸内容が漏出することにより小腸皮膚瘻周辺に著しい皮膚のびらんを生じ, パウチ等の装着ができないものは, 5級 ②それ以外は, 7級 (ⅱ)瘻孔から漏出する小腸内容がおおむね100ml/日以上のもの ①パウチ等による維持管理が困難であるものは, 7級 ②それ以外は, 9級 (ⅲ)瘻孔から少量ではあるが明らかに小腸内容が漏出する程度のものは, 11級 (4) 小腸の狭窄を残すものは, 11級 |
大腸の障害
(1) 大腸を大量に切除したもの 結腸のすべてを切除するなど大腸のほとんどを切除したものは, 11級 (2) 人工肛門を造設したもの (ⅰ)小腸内容が漏出することによりストマ周辺に著しい皮膚のびらんを生じ, パウチ等の装着ができないものは, 5級 (ⅱ)それ以外は, 7級 (3) 大腸皮膚瘻を残すもの (ⅰ)瘻孔から大腸内容の全部又は大部分が漏出するもの ①大腸内容が漏出することにより大腸皮膚瘻周辺に著しい皮膚のびらんを生じ, パウチ等の装着ができないものは, 5級 ②それ以外は, 7級 (ⅱ)瘻孔から漏出する大腸内容がおおむね100ml/日以上のもの ①パウチ等による維持管理が困難であるものは, 7級 ②それ以外は, 9級 (ⅲ)瘻孔から少量ではあるが明らかに大腸内容が漏出する程度のものは, 11級 (4) 大腸の狭窄を残すものは, 11級 (5) 便秘を残すもの (ⅰ)用手摘便を要すると認められるものは, 9級 (ⅱ)それ以外は, 11級 ※便秘とは,排便反射を支配する神経の損傷がMRI,CT等により確認でき, 排便回数が週2回以下の頻度であって,恒常的に硬便であると認められる場合 をいうとされています。 (6) 便失禁を残すもの (ⅰ)完全便失禁を残すものは, 7級 (ⅱ)常時おむつの装着が必要なものは, 9級 (ⅲ)常時おむつの装着は必要ないものの,明らかに便失禁があると認められる ものは, 11級 |
肝臓の障害
(1) 肝硬変 | 9級 |
(2) 慢性肝炎 | 11級 |
胆のうの障害
胆のうを失ったものは, | 13級 |
すい臓の障害
(1) 外分泌機能の障害と内分泌機能の障害の両方が認められるものは, | 9級 |
(2) 外分泌機能の障害又は内分泌機能の障害のいずれかが認められるものは, | 11級 |
(3) 軽微なすい液瘻を残したために皮膚に疼痛等を生じるものは, 局部の神経症状として, | 12級,又は,14級 |
脾臓の障害
脾臓を失ったものは, | 13級 |
腹壁瘢痕ヘルニア等
腹壁瘢痕ヘルニア,腹壁ヘルニア,鼠径ヘルニア,内ヘルニアを残すもの
(ⅰ)常時ヘルニア内容の脱出,膨隆が認められるもの,又は,
立位をしたときヘルニア内容の脱出,膨隆が認められるものは, | 9級 |
(ⅱ)重激な業務に従事した場合等腹圧が強くかかるときにヘルニア内容の脱出,膨隆が認められるものは, | 11級 |
泌尿器の障害
腎臓の障害
腎臓の障害は,腎臓の亡失の有無,及び,糸球体濾過値(GFR)による腎臓機能の低下の程度により,認定されることになります。
(1) 腎臓を失っていないもの
(ⅰ)GFRが30ml/分を超え50ml/分以下のものは, | 9級 |
(ⅱ)GFRが50ml/分を超え70ml/分以下のものは, | 11級 |
(ⅲ)GFRが70ml/分を超え90ml/分以下のものは, | 13級 |
(2) 一側の腎臓を失ったもの
(ⅰ)GFRが30ml/分を超え50ml/分以下のものは, | 7級 |
(ⅱ)GFRが50ml/分を超え70ml/分以下のものは, | 9級 |
(ⅲ)GFRが70ml/分を超え90ml/分以下のものは, | 11級 |
(ⅳ)それ以外のものは, | 13級 |
尿管,膀胱,及び,尿道の障害
(1) 尿路変向術を行ったもの (ⅰ)非尿禁制型尿路変向術を行ったもの ①尿が漏出することによりストマ周辺に著しい皮膚のびらんを生じ, パッド等の装着ができないものは, 5級 ②それ以外のものは, 7級 (ⅱ)尿禁制型尿路変向術を行ったもの ①禁制型尿リザボアの術式を行ったものは, 7級 ②①③を除く,尿禁制型尿路変向術を行ったものは, 9級 ③外尿道口形成術を行ったものは, 11級 ④尿道カテーテルを留置したものは, 11級 (2) 排尿障害を残すもの (ⅰ)膀胱の機能の障害によるもの ①残尿が100ml以上であるものは, 9級 ②残尿が50ml以上100ml未満であるものは, 11級 (ⅱ)尿道狭窄によるもの ①糸状ブジーを必要とするものは, 11級 ②シャリエ式尿道ブジー第20番が辛うじて通り, 時々拡張術を行う必要があるものは, 準用14級 (3) 蓄尿障害を残すもの (ⅰ)尿失禁を残すもの ①持続性尿失禁を残すものは, 7級 ②切迫性尿失禁,及び,腹圧性尿失禁を残すもの ⅰ終日パッド等を装着し,かつ,しばしば交換が必要なものは, 7級 ⅱ常時パッド等を装着しなければならないが,交感までは不要なものは, 9級 ⅲ常時パッド等の装着は要しないが,下着が少し濡れるものは, 11級 (ⅱ)頻尿を残すものは, 11級 |
生殖器の障害
生殖機能を完全に喪失したもの
(1) 両側の睾丸を失ったものは, | 7級 |
(2) 常態として精液中に精子が存在しないものは, | 準用7級 |
(3) 両側の卵巣を失ったものは, | 準用7級 |
(4) 常態として卵子が形成されないものは, | 準用7級 |
生殖機能に著しい障害を残すもの
生殖機能は残存しているものの,通常の性交では生殖を行うことができないものをいいます。
(1) 陰茎の大部分を欠損したものは, | 9級 |
(2) 勃起障害を残すものは, | 9級 |
(3) 射精障害を残すものは, | 9級 |
(4) 膣口狭窄を残すものは, | 9級 |
(5) 両側の卵管に閉塞若しくは癒着を残すもの,頸管に閉塞を残すもの,又は,子宮を失ったもの | 9級 |
生殖機能に障害を残すもの
通常の性交で生殖を行うことができるものの,生殖機能に一定以上の障害を残すものをいいます。
狭骨盤又は比較的狭骨盤は, | 準用11級 |
生殖機能に軽微な障害を残すもの
通常の性交で生殖を行うことができるものの,生殖機能にわずかな障害を残すものをいいます。
(1) 一側の睾丸を失ったものは, | 準用13級 |
(2) 一側の卵巣を失ったものは, | 準用13級 |