神経系統の機能または精神の後遺障害
神経系統の機能または精神の後遺障害
交通事故における神経系統の機能または精神の後遺障害には,
【神経系統又は精神の障害】と【局部の神経系統の障害】があります。
中枢神経系に分類される脳又は脊髄の損傷による障害は,複雑な症状を呈するとともに
身体各部にも様々な障害を残すことが多いので,中枢神経系の障害が複数認められる場
合には,末梢神経による障害も含めて総合的に評価することとされています。
交通事故における神経系統の機能または精神の後遺障害としては,受傷の部位や障害の
部位,症状などにより,個別に検討していく必要があります。
大きく分けると,
【その他特徴的障害】としては,
【疼痛等感覚障害】などがあります。
神経系統の機能または精神の障害の後遺障害等級
後遺障害等級別表Ⅰ 介護を要する後遺障害 | 文章 | |
等級 | 障害の程度 | |
1級1号 | 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し,常に介護を要するもの | |
2級1号 | 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し,随時介護を要するもの |
後遺障害等級別表Ⅱ | 文章 | |
等級 | 障害の程度 | |
3級3号 | 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し,終身労務に服することができないもの | |
5級2号 | 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し,特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの | |
7級4号 | 神経系統の機能または精神に障害を残し,軽易な労務以外の労務に服することができないもの | |
9級10号 | 神経系統の機能または精神に障害を残し,服することができる労務が相当な程度に制限されるもの |
局部の神経系統の障害の後遺障害等級
等級 | 障害の程度 |
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
脳の障害
器質性の障害
脳の器質性の障害は,「高次脳機能障害」(器質性精神障害)と「身体性機能障害」
(神経系統の障害)に区分した上で,「高次脳機能障害」の程度,「身体性機能障害」
の程度,及び,介護の要否・程度を踏まえて,総合的に判断されることとなります。
高次脳機能障害
「高次脳機能障害」については,意思疎通能力,問題解決能力,作業負荷に対する
持続力・持久力,及び,社会行動能力の4つの能力の各々の喪失の程度に着目し,
評価されることになります。
「高次脳機能障害」は,脳の器質的病変に基づくものであることから,MRI,CT
等により,その存在が認められることが必要となります。
身体性機能障害
脳の損傷による「身体性機能障害」については,麻痺の範囲(四肢麻痺,片麻痺,及
び,単麻痺),及び,その程度(高度,中等度,軽度),並びに,介護の有無及び程
度により,後遺障害等級を認定することになります。
麻痺の程度は,運動障害(運動性,支持性,巧緻性,速度についての支障)の程度で
判断されます。
非器質性の障害
脳の器質的損傷を伴わない精神障害については,次の精神症状のうち1つ以上の精神
症状を残し,かつ,次の能力に関する判断項目のうち1つ以上の能力について障害が
認められる必要があります。
【精神症状】
①抑うつ状態,②不安の状態,③意欲低下の状態,④慢性化した幻覚・妄想性の状態
⑤記憶又は知的能力の障害,⑥その他の障害(衝動性の障害,不定愁訴など)
【能力に関する判断項目】
①身辺日常生活,②仕事・生活に積極性・関心を持つこと,③通勤・勤務時間の順守
④普通に作業を持続すること,⑤他人との意思伝達,⑥対人関係・協調性
⑦身辺の安全保持,危機の回避,⑧困難・失敗への対応
脊髄の障害
脊髄が損傷された場合には,複雑な諸症状を呈する場合が多く,脊髄損傷の後遺障
害等級の認定は,原則として,脳の身体性機能障害と同様に,身体的所見及びMR
I,CT等によって裏付けのある麻痺の範囲と程度によって,判断されることにな
ります。
抹消神経障害
末梢神経麻痺に係る等級の認定は,原則として,損傷を受けた神経の支配する身体
各部の器官における機能障害に係る等級により認定されることになります。
外傷性てんかん
「外傷性てんかん」に係る後遺障害等級認定は,発作の型,発作回数等に着目して,
判断されることになります。
頭痛
「頭痛」については,頭痛の型の如何にかかわらず,疼痛による労働又は日常生活上の
支障の程度を,疼痛の部位,性状,強度,頻度,持続時間,日内変動,疼痛の原因とな
る他覚的所見により把握して,判断されることになります。
失調・眩暈,平衡機能障害
失調・眩暈,平衡機能障害は,その原因となる障害部位によって区別することが困難
であるので,総合的に次の認定基準に従って後遺障害等級が認定されることになりま
す。
等 級 | 障害の程度 |
3級3号 | 生命の維持に必要な身の回り処理の動作は可能であるが,高度の失調又は平衡機能障害のために終身労務に服することができないもの |
5級2号 | 著しい失調又は平衡機能障害のために,労働能力がきわめて低下し一般人の4分の1程度しか残されていないもの |
7級4号 | 中等度の失調又は平衡機能障害のために,労働能力が一般人の2分の1以下程度に明らかに低下しているもの |
9級10号 | 通常の労務に服することはできるが,眩暈の自覚症状が強く,かつ,眼振その他平衡機能検査に明らかな異常所見が認められ,就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの |
12級12号 | 通常の労務に服することはできるが,眩暈の自覚症状があり,かつ,眼振その他平衡機能検査の結果に異常所見が認められるもの |
14級10号 | 眩暈の自覚症状はあるが,眼振その他平衡機能検査の結果に異常所見が認められないものの,眩暈があることが医学的にみて合理的に推測できるもの |
疼痛等感覚障害
感覚障害
受傷部位の「疼痛」の感覚障害については,次の通り,認定されることになります。
等級 | 障害の程度 |
12級13号 | 通常の労務に服することはできるが,時には強度の疼痛のため,ある程度差し支えがあるもの |
14級9号 | 通常の労務に服することはできるが,受傷部位にほとんど常時疼痛を残すもの |
「疼痛」以外の感覚障害(蟻走感,感覚脱失等)については,
その範囲が広いものに限り,14級9号に認定されることになります。
カウザルギー
カウザルギーについては,疼痛の部位,性状,疼痛発作の頻度,疼痛の強度と持続時
間,日内変動,疼痛の原因となる他覚的所見などにより,疼痛の労働能力に及ぼす影
響を判断して,認定されることになります。
反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)
反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)については,
①関節拘縮,②骨の委縮,③皮膚の変化(皮膚温の変化,皮膚の委縮)という
慢性期の主要な3つのいずれの症状も健側と比較して明らかに認められる場合
に限り,カウザルギーと同様の基準により,認定されることになります。